骨から考える日本人の健康〜古代から現代まで〜

開催日:2013.5.13
開始時間:18:30
会場:HUGS 名古屋プライムセントラルタワー1F
鈴木隆雄先生
国立長寿医療研究センター研究所 所長
一般の方にはあまりなじみのない学問分野のひとつに「古病理学」と呼ばれるものがあります。これは遠い縄文時代から江戸時代、さらにはつい最近の昭和時代まで含む過去の人々の遺された骨からさまざまな病気と健康を解明する研究分野です。骨は保存状態によっては数千年を経ても良く残るものであり、これ程確実にその個人や社会に存在した病気を証明し、健康状態を知る方法はありません。 古病理学から見てみると、骨の健康や病気あるいは老化というものは時代とともに大きく変化してきました。一つの例として、現代の日本では骨の老化に伴う病気の代表として骨粗鬆症がよく知られています。現在ではこの骨粗鬆症の罹患者数は高齢女性を中心としておよそ1000万人とも言われていますが、この病気が今日のように流行るのは実はここわずか20~30年程なのです。一方、過去の日本人の遺された骨の研究から、昔は骨の老化を代表してきたのは壮年の男性を中心とした変形性骨関節症といわれる病気でした。これは骨粗鬆症とは異なり背骨(脊椎)などに、長年にわたる激しい労働などによって、余分な骨が硬い棘のように生ずるタイプの老化です。 この骨粗鬆症、よく知られているように進行すると骨からカルシュウムが溶け出してカスカスとなり、転倒などのわずかな外力によって容易に骨折を発生します。なかでも足の付け根の部分(大腿骨頚部)骨折すると、当然のことながら日々の生活が著しく障害されるとともに、多くの場合手術となり、最低でも一ヶ月程度の入院が必要となってしまいます。さらに不幸な場合には骨折を契機として寝たきりとなる例もあり、本人の苦痛、家族の負担、そして治療費や介護費用など社会への負担も大きい骨折ということができます。この大腿骨頸部骨折はわずかここ10年ほどでその頻度は2倍以上になってしまいました。   今後も進展する(超)高齢社会にあっては、骨の健康は益々その重要性を増すことになります。それは単に骨の老化による骨折や痛みの予防にとどまらず、日々の生活を健やかに暮らすためにも、骨や筋肉の老化予防が一段と重要な時代となっているのです。